光市母子殺害事件の最高裁判決要旨 

 犯行時18歳だった被告は暴行目的で被害者を窒息死させて殺害し、発覚を免れるために激しく泣き続けた生後11カ月の長女も床にたたきつけるなどした上で殺害した。
 
 甚だ悪質で、動機や経緯に酌量すべき点は全く認められない。
何ら落ち度のない被害者らの尊厳を踏みにじり、生命を奪い去った犯行は、冷酷、残虐で非人間的。結果も極めて重大だ。
 
 殺害後に遺体を押し入れに隠して発覚を遅らせようとしたばかりか、被害者の財布を盗むなど犯行後の情状も悪い。遺族の被害感情はしゅん烈を極めている。
 
 差し戻し控訴審で、故意や殺害態様について不合理な弁解をしており、真摯(しんし)な反省の情をうかがうことはできない。
平穏で幸せな生活を送っていた家庭の母子が白昼、自宅で惨殺された事件として社会に大きな衝撃を与えた点も軽視できない。
 
 以上の事情に照らすと、犯行時少年であったこと、被害者らの殺害を当初から計画していたものではないこと、
前科がなく、更生の可能性もないとはいえないこと、遺族に対し謝罪文などを送付したことなどの酌むべき事情を十分考慮しても、
刑事責任はあまりにも重大で、差し戻し控訴審判決の死刑の量刑は、是認せざるを得ない。
 
 【宮川光治裁判官の反対意見】
 
 被告は犯行時18歳に達していたが、その年齢の少年に比べて、
精神的・道徳的成熟度が相当程度に低く、幼い状態だったことをうかがわせる証拠が存在する。
 
 精神的成熟度が18歳に達した少年としては相当程度に低いという事実が認定できるのであれば
「死刑を回避するに足りる特に酌量すべき事情」に該当しうる。
 
 被告の人格形成や精神の発達に何がどう影響を与えたのか、犯行時の精神的成熟度のレベルはどうだったかについて、
少年調査記録などを的確に評価し、必要に応じて専門的知識を得るなどの審理を尽くし、再度、量刑判断を行う必要がある。審理を差し戻すのが相当だ。
 
 【金築誠志裁判官の補足意見】
 
 人の精神的能力、作用は多方面にわたり、発達度は個人で偏りが避けられないのに、
精神的成熟度の判断を可能にする客観的基準はあるだろうか。
 
 少年法が死刑適用の可否について定めているのは18歳未満か以上かという形式的基準で、精神的成熟度の要件は求めていない。
実質的な精神的成熟度を問題にした規定は存在せず、永山事件の最高裁判決も求めているとは解されない。
 精神的成熟度は量刑判断の際、一般情状に属する要素として位置付けられるべきで、そうした観点から量刑判断をした差し戻し控訴審判決に、審理不尽の違法はない。